2003年11月9日日曜日

NO.8・2003/NOV/9th〜へこんだ編


『さかちーのアメリカ旅行記 2003』酒井ちふみが再び単身渡米した際のあれやこれやを綴った旅行記
写真:やっとの思いでたどり着いた宿のロビー、半泣きで立ち尽くしていました

ミッドタウンのホステルを朝早くチェック・アウトして、ハーレムのゴスペルを聴きに行きたかった。移動はバスが好きだ。地下鉄は何か憂鬱だし、潜って上がって邪魔くさい。

朝食を食べに近くのデリへ出かける、まだ薄暗い街がだんだん輝いて行くのを見ながらベーコン&エッグとベ−グルを食べた。ホステルに戻ると、私の時計の針が1時間遅れていた。びっくりして急いで準備してチェック・アウトする。

3rd Avenueを北に上がるバスでハーレムへ行ける。ハーレムの民宿にそれ以降5日間泊まるのだ。その民宿がなかなかにいかしてて、お薦めの教会へ案内してくれてると言うので、私は張り切った。

バスで60丁目分ほど北上する、確かに100丁目を過ぎた辺りから少し町並みが変わる。ハーレムだ。バスは家族連れが一組乗っているだけで、日曜のおだやかなバスって感じだったでも、私は、またもや失敗していた。トークン代わりのカードを持っていなかったのだ。現金での支払いは無理だった、気付いて車掌さんに事情を説明すると、じゃぁもう払わなくて良いよと優しくしてくれた。安心してサンキューを連発して気を良くしてバスを降りた。そしてまた失敗に気付いた、そこは降りるはずのバス停ではなかった、、、、(苦笑)。

セントラルパークの横幅分(分かりにくぅ、、、)以上、ごろごろスーツケースを引っ張ってハーレムの目抜き通り125丁目を西へと向かう。黒い車が何台も何台もクラクション鳴らして怒鳴りながら近づいてくる、恐い、道に人はほとんどいない、いるとしたら道に暮らすおじさんだけでごみは散らかってるし、女の人もいない、日本人なんかいるはずもないし、店も全部閉まっている。

日曜のハーレムの朝、ここまで閑散としているとは思っていなかった。後で分かった事だが、ハーレムにはイエローキャブ(黄色のタクシー)は走っていない。黒いハイヤーがタクシーなのだ。ちゃんとガイドブックを読めば分かった事だったけど、けちって2000年版しか持ってなかった、これは全部に言える事だけど、同時多発テロ以降さまざまな変化が起きているニューヨークだけに、古いガイドブックは何の役にも立たなかった。

走った、走った。スーツケースにまとわりつくゴミなんか気にする余裕無しだった。

もうよく覚えてないけど、なんとか民宿の前に辿り着いた。ほんとの一般家庭と思われる建物に一枚のプレートが貼っつけてあるだけで、民宿には見えなかった、横の家は玄関が全面セメントで被われていて、そこにスプレーの落書きは派手にしてあり、私は何だか凄く不安になって来た。ネットのページと、そこに泊まった人の書き込みを馬鹿正直に信用してここに決めたのは正解だったろうか?と恐くなって来た、、、、。恐る恐るベルを鳴らす。

男の人が出て来た、宿主のレーンさんだ。『予約してたちふみです』と告げると『どうしてこんなに早く来たんだ???』と尋ねられた。そうだ、少し早めにハーレムに入って、露天の店でショッピングしたり、ハーレム博物館を見たりしようと思ってたのだ。
でも全部閉まっていて、人も誰もいないし、そんな雰囲気なんかこれっぽっちも無かった。でも、それを説明する英語力がさらに無い!ソーリーを連発して謝った。

とりあえず中に入って、スーツケースを置いて、ベッドメイクが済むまで、何処かで時間をつぶす事になった。行きたい所なんかもう無いのだけど、やたら早くチェックインした気まずさも有り外に出た、空いている店は、マクドナルドだけだった。黒人のおじいちゃんに囲まれつつ珈琲を飲む。おばあちゃんが相席して良いかと尋ねて来たので、どうぞと言った。

来ている人のほとんどがおじいちゃんだ、何組か家族連れもいた、子供を叱るお母さんの声が耳につく。私は激しく落ち込んでいた。もう泣きたかった。全部をハーレムのせいにして、もう今日チェックアウトしたい、ミッドタウンのホステルに帰りたいと思った。

ぼんやりと相席のおばあちゃんが読んでいる新聞に目をやる。おばあちゃんの手と新聞だけが見える、そして気付いた。

時計の時間がはるかに私のものより遅れていた。

私の時計は11時まわっているのにおばあちゃんの時計は、なんと9時40分。

『‥‥。』

〜あちゃ〜。またやってしまった、私の時計は間違ってたんだ。〜

すべてがつじつまがあった。ハーレム中のお店が何処も開いていない事、人通りが無い事やたら黒いハイヤーが多い事、宿主のレーンさんの本当に不思議そうな顔。

今回腕時計を持って行くのを忘れてしまった。だから時計を見る度、鞄から目覚まし時計を引っぱり出していた(苦笑)その時に変に触ったのかもしれないし、ホステルで時間を合わせた時にミスったのかもしれない、どちらにせよ、理由が分かって、私は本当に安心した。じわ〜っと、何か解けて行くよな気がした。

『ハーレムも捨てたもんじゃ無いぜ!』

それどころか、本当に素敵な時間を過ごす事になるのです、とても好きな宿だったんです。